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2024/09/11 15:24
アンティークジュエリーならではの素材、ハーフパール。最近ではアンティーク調のリングのデザイン等で目にする事も有りますが、ジュエリーの素材として盛んに使われていたのは、ヴィクトリア朝の英国であったといわれています。
大粒のアメシストをはじめとして、ガーネットやペリドット等の半貴石の取り巻きに、好んで使用されたハーフパール。
主石を華やかに縁取るだけでなく、一つひとつ微妙に異なるカラーや、自然がつくった真珠層の個性的な表情に、魅了された方も多いのではないでしょうか。
勿論、私もそのひとりで、アンティークジュエリーをルーペで確認する度、真珠を生み出す自然の神秘や、加工に携わった先人たちの苦労、辿った歴史等を思い描いて時間を忘れて見入る事も。
そんな、愛すべき素材、ハーフパール。ここでは取り巻きに使用されていた、小さなハーフパールについてまとめたいと思います。
1.歴史
人類史上、最も古い装身具の素材といわれる真珠。神話の時代に登場、古代ギリシャではヴィーナスのシンボルでした。脈々と人々に愛され、王族や貴族は衣服に縫い込んで富と権威の象徴としました。エリザベス1世の真珠の装いは神々しく厳かで、純潔、美、高貴等、真珠を纏う事で頂点に立つものとしての説得力を持たせた、政治的な意味合いも感じられます。
ハーフパールの登場は18世紀頃。その後大流行し、19世紀末には姿を消したそうです。
2.成り立ち
天然真珠はいびつなのが当たり前。貝の中に入り込んだ異物を、身を守るために極薄い膜でコーティングしていく作業が、真珠層の形成となっていきます。成分はカルシウムと有機質、貝殻と同様です。長い時間をかけてコーティングしていった結果、艶やかに巻いた部分とそうでない部分が出来たり、表と裏が出来たり。
ハーフパールを説明するのに、「貴重な真珠を増やす為二つにカットした」という見方が有ります。それなりの大きさが有った場合はそれも可能だったでしょう。
しかしながら、レースピンなどの取り巻きに使われている、極小さな真珠の多くは「綺麗な部分を残して削った」のではないかと思います。もちろん、正解は不明で、当時の加工方法は謎に包まれたままです。
3.色褪せない理由
ハーフカットの真珠は経年による外側からの磨耗を除き、内側から変色しにくい素材です。それは、自然由来のごく小さな異物が核で真珠層が厚い為です。
4.セッティング
一つひとつ、小さな円形の真珠を留めていく作業は、気の遠くなるような労力と確かな技術が必要でした。100年以上の時を経て、1ミリにも満たない真珠がしっかりと台に留まっている様は、奇跡というか、本当に感動してしまいます。
小さな爪で留められていたり、覆輪留めだったり、枠にもごく細やかなミル打ちが施されていると、時間と労力をかけて丁寧につくられた時代のジュエリーに愛おしさが増します。
ジュエリー製作への機械化の導入や、1920年代以降の養殖真珠の流行等、様々な要因からハーフパール取り巻きのジュエリーは姿を消してゆきます。
今なお色褪せない艶やかで個性豊かなハーフパールのジュエリー。是非、様々にお手に取って頂きたい、アンティークジュエリーです。
・真珠層の成長模様が確認出来るハーフパール。大粒のアメシストを繊細なレースの様に縁取る【写真中】
・暖かな赤が印象的なガーネットの周りを、白い花びらの様に縁取るハーフパール。バーブローチなので甘過ぎない印象【写真下】
■参考文献
別冊太陽「パールジュエリー」
「366日絵画でめぐるファッション史」解説・監修 海野弘
「アンティークと20世紀ジュエリー」戸井田正巳
「VICTORIAN JEWELLERY」PETER HINKS (敬称略)