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2024/09/15 20:33



ヴィクトリア朝のジュエリーには、スポーツにちなんだモチーフが有ります。
アーチェリーやキツネ狩り、テニスやゴルフ、ヨット等、趣向を凝らした様々なデザインが人気を博します。

中でも、特に上流階級の人々の間で流行したキツネ狩りは、天然のダイヤモンドが散りばめられたフォックスヘッドのリングや、ゴールドをふんだんに使い、天然ルビーを瞳に埋め込んだクラバットピン、カフリンクス等が多く製作されました。
形もキツネが走る姿の「ランニングフォックス」、頭のみかたどった「フォックスヘッド」等、多種多様にデザインされました。素材も15金や9金、シルバー製、天然石やガラスを用いたもの等残っています。獲物のモチーフを身に着ける事で狩猟の成功を願ったのです。



1.ラッキーモチーフのアンティークジュエリー


スポーツは勝敗を競うものである事から、ラッキーモチーフをプラスしたジュエリーも多く生み出されました。特に目につくのはフォックスヘッドと馬蹄(ホースシュー)を組み合わせたものです。馬蹄の上が開いているものは幸運を掴む・貯める、下向きなら悪運を払うといわれています。
ホースシューのジュエリーのモチーフは単体でも大変好まれ流行しますが、フォックスヘッドと組み合わされたデザインは安定感も有り、ジュエリーとしても完成度が高いです。

2.いくつも必要だったジュエリー


スポーツが社交の場でもあった当時、華麗なウエアのワンポイントとして輝いていた、スポーツモチーフのアンティークジュエリー。「紳士のスポーツ」といわれたフォックスハンティングですが、男性のみならず、帯同した女性もフォックスのジュエリーを身に着けました。スカーフやタイ、ハット等、クラブハウスで着替える度に、ジュエリーもウエアに合わせて取り替えられたそうです。



3.様々な表情をみせるフォックスヘッドのジュエリー


この時代、ジュエリーの分野でも機械化が取り入れられていきますが、フォックスの顔の毛並みや、ダイヤモンドやルビーの埋め込み等は、やはり、当時の職人さんの手仕事が生きていたと思います。

フォックスヘッドが好きで、様々なジュエリーを取り扱って来ましたが、同一の(または似た感じの)ものは一つも有りませんでした。少し愛嬌があったり、凛々しくハンサムなキツネが好みで、そんな感じのフォックスヘッドを選んで来ました。一つひとつ、微妙に異なる表情がたまらなく魅力的です。
また、立体的なフォックスヘッドのジュエリーは、光の当たり方や向き等でも表情が変わるので、とても興味深く、見ていて飽きません。


4.フォックスモチーフジュエリーの区切り


スポーツとしての狩猟は、猟犬を追い立てて、キツネを仕留めるという残忍なもの。時代の流れとともに人々の意識は変わり、ある意味「アクティブ」な、フォックスモチーフのジュエリーは一区切りを迎えます。
しかしながら、モチーフとしてのデザインの魅力や時代への憧れも含め、アンティークジュエリーに倣った、ヴィンテージのフォックスジュエリーはつくられていきます。瞳がガラスのもの、素材もシルバー等が多い中、アンティークジュエリーに引けを取らない、天然ダイヤモンドやルビーを使用したジュエリーも有ります。

5.「お守り」としてのフォックスモチーフジュエリー


時はさらに進み、動物愛護の観点から、フォックスハンティングに批判的な時代へと移っていきます。
そんな中、2002年12月27日、英大衆紙ミラーに「エリザベス女王が狐狩りの愛好者だったチャールズ皇太子へ、猟犬を使った狐狩りを止めるように忠告した」という記事も有ります。英国下院では2004年に「狐狩り禁止法」が成立します。

害獣駆除、動物愛護、貴族の伝統…複雑な背景を持つ、フォックスモチーフのアンティークジュエリー。のこされたジュエリーは皆個性的で、いきいきとした表情をしています。辿った歴史を踏まえつつ、当時の貴族たちが込めた願い「幸運のお守り」として、大切に残していきたいジュエリーです。

・ローズカットのダイヤモンドが顔一面に散りばめられたフォックスヘッドのリング。瞳は天然ルビー【写真2枚目】
・「VICTORIAN JEWELLERY」より、多種多様なフォックスのジュエリー【写真3枚目】
・光の当たり方や向きで、表情を変えるフォックスヘッドのブローチ。瞳は天然ルビー【写真4枚目】

■参考文献等

別冊太陽「永遠のアンティークジュエリー」
「愛のヴィクトリアンジュエリー 華麗なる英国のライフスタイル」執筆・穐葉昭江、ダイアナ・スカリスブリックほか
「VICTORIAN JEWELLERY」PETER HINKS 
四国新聞  (敬称略)